戯れ言


私は貴女が嫌いです。
何でって、そりゃあ貴女が愚か者で身勝手だからですよ。
何時だったか言われたことがありましたよね? 偽善者だって。全くその通りなんですよ、貴女って人は。真面目で優しい人のように振舞って、ちょっと褒められてちやほやされて、そうするとすぐ付け上がる。きちんとしなけりゃならないところでお得意の「うっかり」を披露する。失敗しても謝りゃ済むってもんじゃないんですよ。やらかしてしまったことはどうやったって取り消せやしない。相手にどれだけ失礼なことをしているか分かっているんですか?
それにね、私は知ってるんですよ。貴女、失態をやらかした後にいつも心の中で唱えているでしょう、「痛い痛い、ああもう忘れてしまえ」って。どうなんですか、恥ずかしいと思わないんですか? だから失敗を繰り返しているんです。常に心を引き締めておくってことが出来ないままなんです。人間性を疑ってしまう。
ああ、その憎たらしい顔をやめなさい! 前を見据えない目、ぼうっとしたしまりのない表情、本当に腹が立つ、長い間一緒にいますが、いい加減我慢の限界です。この才だ、貴女の嫌いなところを全て言ってしまいましょう。
「いいですか、よく聞きなさい。私はね、――……」



「あの人、大丈夫かしら?」
「放っておけよ、下手に近づいたら面倒なことになる」
大通りを歩く人の波がある一点を避けて二股に分かれている。
異様な光景だった。
通りの真ん中で長い髪の女が蹲って水溜りを覗き込んでいる。身なりはそれなりに整っているのだが、髪はぐしゃぐしゃで水面を睨む目は血走っていた。恐ろしい形相で女は水溜りに映った自身の影にぶつぶつと呟いていた。
「いいですか、よく聞きなさい。私はね、貴女のことが大嫌いです」


2011.03.12
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